マレーシアの様なイスラム教を中心とした国にも,様々な料理がある。マレーシアの料理、南インド風のヒンドウー料理、インドのイスラム料理、この辺りがメインとなっていて美味い。実用食と言ってもいい。 他 には、ヴェトナム、イタリアン,フレンチ、スパニッシュ、メキシカンに、普通の欧米料理、ファースト・フード、ペナンやクアラルンプールの様な大きな街で は日本料理もある。それに隣国のタイ料理は、人気があって当然だが,中華料理、それも海南中華(はいなんちゅうか)と呼ばれる、南アジア風の中華料理が美味しい。
イスラム国なのでアルコールや豚肉は一寸、と思いがちだが,中華の店に入れば、そこはノー・ウオリーズ。無論、イスラムの人たちはやって来ない。
ここは,コタ・バル、マレーシアの北、クランタン州の州都。マレー語で“新しい街”という意味だそうだ。マレー半島の東海岸、タイの国境に近い。タイとの国境を徒歩で越え、そこからバスで,小一時間程でこられる地方 都市である。街は、クアラルンプールの様に近代的ではないが、ローカルな街としては奇麗。マレー風の伝統的な家もちらほら見える。
博物館も多く、地域の伝統文化を保護するカルチュアーセンターもある文化都市だが、ビーチ・リゾート,ダイヴィング・スポット、ナイトマーケットやセントラル・マーケット等,エキゾティックな見所も近くに多いのだ。
この辺りは、イスラム教徒が95%を占める、と言われる所だ。マレー系、インド系の人が多い。
イスラムの女性達は、イスラム世界のトップモードとされる、イスタンブールやデリー、ムンバイのファッションに夢中のようで、街中に花が咲いてように華やかになる。まるで、ヒンドウー世界のように華やかだ。 ドーム状の市場に入れば,イスラムの詠唱、アザーンが流れている。アジアっぽいイントネーション、小節の効いたアクセントがいい。
インド、インドネシア、タイと並んで、マレーシアは“バティック(ろうけつ染め)”で有名な地域である。日本では“更紗”といい、又、再認識されようとしているそうだ。綿も絹も当然ある。西陣織の様な布地も良く見かける。藍色、或は茶色を中心とした渋めの、一寸、上等な“バティック”で、自分のシャツを創ってみたくなってくる。結構、高価なんだ。いい布地使うと、一万円、裕に越してしまう。
街のあちこちの屋台やレストランで、南インド風にバナナの葉っぱを皿にした、伝統的なイスラムやヒンドウー料理が美味しい。そして、ここの海岸は,今では,“恋人達のビーチ”と呼ばれる,ロマンティックな呼び名になっている海岸があり、かつては、旧日本帝国陸軍が、初めて上陸した地点でもある。ここから、マレー半島に於ける旧日本軍の連戦連勝が始まった、と言われる。歴史をひもとけば、ビルマ戦線では、それこそ“こてんぱん”にやられてしまったが、又、真珠湾攻撃は、“闇討ち”だから別として、旧日本軍が華々しく活躍し、勝利を味わった唯一の場所なのだそうだ。日本の人は、知らないものもいるようだが,地元の人は,若者から年寄り迄、誰でも、その事を知っている。
ここでは、ビールも飲めるが,値段が高い。ビールはタイの三倍もするそうだ。良くは判らないが、日本と同じか、其れ以上ともいわれる。アルコール好きには一寸つらいが,ものは考え様で、イスラム国でビールが飲めるだけましだ、と思えば良い。中国系の人が多いペナンやクアラ・ルンプールには比べるべくもないが,この街には、小規模ながら中華街もない訳ではない。

中国語で、“肉骨茶”と書いて,“バッコッテェー”と読むのだそうだ。茶という文字が見えるが、所謂、お茶ではない。ご飯と一緒に食べる。一言でいうと,“鍋焼きの、豚の固まり肉のシチュー”である。中国のスパイス、八角が効いていて,香り高い。料理が運ばれて来る時には,陶磁器の鍋の中は、ぐらぐらと煮え立っていて、見るからに美味そう。鶏肉や牛肉の“バッコッテェー”というのもあるそうだがマレーシアの中国人には,豚に合う料理なので豚が美味いのだ、と言う。RM6と言うから約60Bt.、約200円位。少々高価であるが,肉の量次第では安い店も在る。
バンコクにも、チャオプラヤ川沿いに、ビーフンのラーメンにビーフのバッコッテェーをのせた美味しい料理、“センミー・ナム・ヌア”があり,何か中国のイスラム料理風で美味しいので、バンコクに居るときは、始終、食べに行く。
よく働く人やサラリーマンは、朝から熱いバッコッテェーを召し上がっている。ニンニクも生姜も効いていて、スタミナは充分附く事だろう。
マレーシアでは、大体90円〜100円くらいから一品料理は食べられる。それ故、肉骨茶(バッコッテェー)は、割と高価な食事である。だが、内容、実質を考えれば、決して高価ではない。店にも依るが、大きな豚肉の固まりが、三つくらいは入っている。スタミナ食だ。だが、タイ同様に、時には40度を越す暑いマレーシアでの,熱い肉料理は殊更美味しい。フーフーいいながら、熱い料理を食べ終わる頃には,汗は出きってしまい、後味は,さっぱりと爽快である。熱いジャスミン茶で締める。そう言う習慣がついて、南国では、余り冷たいものを食べないようにしている。尤も、ざる蕎麦と冷や奴、それにココナッツやマンゴーのフルーツジュースは別であるが…
熱くて辛いココナッツ風味のチキン・カレー,或は熱いバッコッテエー、それに、熱いチャイやコーヒー、中華風ならジャスミンティー。さすれば、暑さ等とは同化してしまい、気にならなくなってくるのが不思議。サウナに入ると思えば良いのだ。要は、暑さから“逃げたらあかん!”それが一番の避暑となる。
次の日に,別の中華の店にいってみた。何人かの日本の旅行者と一緒だったからだ。この店が知られているのは“茶碗蒸し”の所為だと聞いていた。中華の茶碗蒸しといっても,蒲鉾や銀杏が入ってないだけで、日本でよく食べる茶碗蒸しと特に変わらない。出汁の味も、鶏肉と貝柱の出汁で、味も風味も丁度良い。丁度良いのは,美味いのだ。
その茶碗蒸しと、ポテトと野菜と鶏肉のカレー風の煮込み,それにご飯と言う、さっぱりと美味しいディナー。それ以後、茶碗蒸しの味が癖になって,家に帰ってきても,“茶碗蒸し”を良くつくるようになってしまった。アジアに居れば,一汁一采でも立派なディナーとして食べられる.鶏も卵も入っているしね。鰹節と昆布、それに一寸高価だが、貝柱の出汁が美味い。タイ料理にも良く使う。牡蠣を入れても、海老を入れても美味い。後はご飯だけでいい。うどんやそばに載せてもいい。蒸し器があって、卵と出汁と有り合わせの食材、野菜、シーフード、鶏肉等があれば簡単にできる。例え、何も具材が無くても,青い菜っ葉と出汁と卵さえあれば、結構美味しい。
タイでは、魚介料理を“蒸して”食べるのが割とポピュラーなので、自然とタイやバラクーダ、ダツ、鱸、烏賊、蛸、蟹、海老や温野菜のサラダ等を良く食べ る。後はソースを工夫すればおいしい料理となる。ライム、バジル、レモングラス、ミント、梅酢やショウガ、胡椒、山椒、トマトソース、和芥子がキーポイント。シンプルに、ライム、出汁醤油に、唐辛子か山椒でもいいんだけどね。
三つ葉のかわりにパクチ(香采、コリアンダー)やバジル(バイカプラオ)を使い,煎ったすりゴマ、炒ったカシューナッツや、ピーナッツ、鰹節、貝柱、こんぶ等の出汁が入れば,最高だ。今は、殆どタイの素材を応用している。しかも、一寸、和風なタイ料理だ。今度,烏賊のするめの出汁,牡蠣オイル、ココナッツミルク、それにナンプラーも和食に試してみよう。秋田のショッツルは日本のナンプラーなのだ。ご存知だったかな?
今回は中華に焦点を絞ったが、食べ物がおいしくて,しかも値段が安い国はそれだけでも魅力がある。インド、タイ、中国、インドネシアという伝統文化に囲まれた、しかも融合的な文化が豊かなんだね。料理に国境がないのは、音楽や芸術と一緒、政治性がないのがいい。
日本の料理法も、ここでは、応用が利く。日本料理のルーツをたどってみれば,例えば、鰹節はモルディブがルーツとされる。又、日本のファーストフード、“寿司”は南アジアの“保存食”や“ちまき”の様なものから発展したといわれる。今や、寿司はアジアのどこへ行っても食べられる様になってきたようだ。インドマグロのとろも、南インドや日本に行かなくとも、バンコクやペナン迄行けば食べられる。
アジアの食文化は、北のモンゴル、チベット、中国、ロシア、西の地中海文化圏から、東の外れの日本迄、又、南のインド、タイ、ラオス、タイ、インドネシア、ボルネオ、ポリネシアの諸国とも、どこかで繋がっているのだ。まるで“華厳経”のようではないか。
南アジアは,何処の国も,自然、農産物、漁業も盛んで豊か、そして大都市以外は公害も究めて少ない。海に囲まれ、熱帯雨林が潤しているからだ。一見して、混沌として、矛盾していながら、不思議に、妙に調和している如く、静かでありながら、しかも活気があって、住み易く,金もかからず、税金も安くな れば,程々に文明もあり、又、文明が、ありすぎると、人間は退化するし、面倒も心配事も多くなる。皆、良くその事を知っている。面倒がなければ、健康で楽に生きられれば、庶民に取っては、いう事がない。ヒンドウー、イスラム、仏教、タオイズムが見事に調和している。欧米人から見れば、まるで奇跡の様だ。思考の外の世界だからだ。でも、そこが私の好きな世界。
聞いた話だが、“アジア”という言霊そのものには、“神性”という“意味”が在るのだそうな。気付けば、私達は、既にその“神性”の中に居る。
マレーシアにはもう何回も来ているが,その度ごとに,新たな魅力が観えて来る。物価は一般にタイやラオスよりも少々高め。だが、ものに依ってはタイよりも安いものもあり、大量ではないが、牛肉、飲茶、“蓮の餡入りの中華饅頭”、インドのスパイス、インドかマレーシアの紅茶、ビスケット(英国製)を、マレーシアに来る度に、買って帰る事にしている。
マレーシア全般に言える事だが、街が奇麗だし,きちんとしている。バンコクの様に、Funk’n Nastyではない。そこで、風情の点や情緒,深みの味では文化も違い、どうしても魅力の点ではタイには一歩譲る。又、姿形は違うものの、そう言う観点では、日本に良く似ている。嘗てのインド系の名首相、日本びいきだったムハンマド・マハティールのセンスが今だに反映されているかの様である。おまけに、イスラム国だけに,路上に酔っぱらいは、皆無である。当然、夜の街もいかがわしくない。女性が一人で旅しても,安心できる。最近は良く判らないが、嘗ての日本みたいだ。少なくとも,女性の不安感が少ない事が,環境の全てに反映している。
最近は、豪州、中国、ロシア、欧米、日本からの旅行者も投資も増え、当然、経済交流、文化交流も華やかになってきている。これからの将来も楽しみになる。平和で、美味しい国は、素晴らしい!