2007年3月4日日曜日

トリシュール

 “トリシュール”というと,英語で言うと,トライデント。三つ又の槍のような形をしている。トライデントは、ギリシャ、ローマ神話に出てくる,ポセイドン、ネプチューン、がもっている、魚をつく銛である。それはそれでいいとして、トリシュールはヒンディー語であるからして、意味は全く違う。又、宝蔵院流の槍は,たまたま、修行中、槍と三日月とが重なって,それがヒントとなって生じた武器である。

 トリシュール、それは,瞑想上に於ける、意識を目覚めさせる上での秘密をも現している。魚をつく銛とはいっさい無関係だ。銛や釣り針等についている,戻り、返しが無いであろう。このトリシュール次第で,人の意識は目覚めだす。“シヴァ神”の持ち物だ。
 トリシュールは、信仰上に於いては、稲妻を起こし、邪悪なるものを破壊する強力な武器となっている。息子のガネーシャ、シヴァの奥方の一人、シャクティーのドウルガも、チベットの金剛乗仏教の開祖、「パドマ・サンバーヴァ」も持っている(チベット語では,確か“カタンガ”と言ったと思う)。大本は、シヴァ神にある。



 北欧の伝承にも基づいた,ルーンという文字を使った,神託(オラクル)にも、“アルジス”と言って、トリシュールはあり、この場合の真意は,“保護”である。暗に,感情のコントロールを促し、悪霊や災いから守ると言う事だ。一定の空間を作り、魂の戦士達の、『鏡』の役目を果たすのだ。そしてポジティヴに、寛ぎと、辛抱強さと、先見の明をひらくのである。

 トリシュールが何を象徴しているかというと,人の体の一部である。
それは体の中の,知覚的、感覚的な部分を覚醒させる。
人の体には,自律神経と副交感神経がある。
人には,誰でも脊髄がある。勿論動物にも在る。魚にも在る。
脊髄の中にスシュムナーという自律神経が通っている。普通シルヴァーコードと呼ばれている。これが生命の根幹である。スシュムナーが無ければ,脳も内蔵も呼吸器も体の筋肉も、人体のすべてが機能しなくなってくるのだ。言ってみれば,『筋金』である。
自律神経である。

 自律神経は、より本能的に近い調節機構である。動物には勿論,人間にも備わっている。
別名、不随意神経系とも呼ばれ、私たちが意識せずとも,眠っている間にも働き続けてくれる。
自律神経は自我意識(エゴ)を除くあらゆる意識と直接繋がっているからである。
逆にいえば、自我(エゴ)の強いものほど、自律神経は,機能しなくなってくる、と言うことだ。
自律神経をコントロールするには,呼吸法が一番いいとされている。すくなくとも、平常では気にもしていなかった,内なる事,そして内蔵の働きにも気がつくようになるからだ。
しかも、無意識、深層意識とも直接的なつながりがあり、意識的な心と無意識的な心とをつなげる唯一の方法なのである。
この通路は何度も言ってきたように、平常の意識の間は,閉ざされている。
瞑想を知らない人は、ここより先には進めない。
意識が変化した状態、トランスとかハイと呼ばれる意識状態に入ると、自ずと,開放される。
ここに、禅で言うところの,“本来の面目”がある。
意識は拡大し,自我は消え,自己から,大いなる自己へと変容を遂げる。

 自律神経がきちんと機能していれば、体中の宇宙は,整って,きちんと機能するようになる。
良く出来ているね。人の体の宇宙は。
タントラに依れば,スシュムナーを覚醒させて、純粋意識(シヴァ)に至るとなっている。
全身全霊になると言う事だ。自然体の人間になる,と言う事だ。これ以上に気持ちのよい事は無い。
21世紀の,“粋“は,おそらくこの辺りが源になるだろう。

 このスシュムナーが、意識の“ハイウェイ”なのである。このハイウェイは,尾てい骨から、下腹、鳩尾、ハート、のど、第三の目、脳に繋がり、そしてそこをも突き抜けて,天頂に至る。所謂,七つのチャクラとクンダリーニである。尾てい骨から,天頂まで,通通になれば,上昇も下降も自由自在になれる。そして、このハイウェイに沿って,二匹の蛇(ナーガ)が,螺旋状に絡み合って,中心のスシュムナーを補佐しているのである。副交感神経である。そこにスシュムナーと合わせて、都合、三本の脈略がある。

 後年、ギリシャにも伝わり,ギリシャ神話の神々の一人、ヘルメス(マーキュリー)の持つ、魔法の杖(カドケウス)にも、二匹の蛇が絡み合って、最上部では,翼となっているのを見た事があるだろう。このタントラの科学が伝わったものなのだ。イタリアやフランス、ギリシャにもシヴァ派の人が多いのもその為だ。ヘルメスを探求して行くと、シヴァ神に行き着いてしまうのだそうだ。
 七福神の一人、毘沙門天、インドではとうの昔に忘れられてしまったが,トリシュールを持っている。又,寿老人の持つ杖も暗にその事を意味していると聞いた事がある。“健康”の要だからだ。

 世界は変化し続けているのだ。固定的な事は,何一つ無い。あるとすれば,それは「死」の様なものだ。
鍼や指圧の科学も,この理論を発展、展開したものである。
 二匹の蛇(ナーガ)が螺旋状に,スシュムナーを中心にして上昇して行くと,上昇するには,大変なエネルギーがいるのだが、鳩尾からハートに至ると,そこから上はなかなか用意に上昇しない人もいる。エネウギーが不足しているのだ。その場合、節制して、エネルギーをためなければならない。
 丁度,のどのあたりに「ヴィシュッダ」と言う,“浄化のチャクラ(法輪)”があって,ここをクリアしないと,上には進めない。ここで,過去の残存物、カルマ,あらゆる病気や問題の原因が,おおかたとれてしまう。
 ここでも二匹のナーガは交差しているのだが、この集合点は,上位へ向かう場合には避けては通れない。
 この「ヴィシュッダ」が目覚めると,特徴として、聴力が敏感になってくる。今まで聞こえなかった音も,微妙に聴こえてくる。深い瞑想中に,宇宙の音色が聴こえてきたり,音楽がとりわけ素晴らしく聴こえてくる事がある。それは「ヴィシュッダ・チャクラ」が活動を始めた事になる。

 トリシュールはその、意識の交差点、ジャンクションを表しているのだ。この先は、左右が逆転するところでもある。進化の要と言ってもいい。そして,右半身は主に左の脳へ,左半身は右の脳へと繋がり、スシュムナーは第三の目に入って行くのである。