人間とは、勝手なもので食べ物に不満はなくとも、環境が変わればどうしても食べたくなってくるものがある。
インドに居た時は、インドの食事には満足していたにもかかわらず、たまに、日本茶とざる蕎麦が欲しくなって来る。40度を超す、暑い町中で、エアコンの効いた蕎麦屋を見つけ、冷えた日本茶とざる蕎麦があれば、正に天国と言ってもいいかもしれない。ヒマラヤの蕎麦粉があればいう事はないが、乾燥麺を茹でた程度のものでも、長葱、わさび、大根おろしがあれば美味しく頂いてしまう。私のなかにあるDNAの要求かもしれない。
ネパールに居たときには、イスラム料理がたまに食べたくなってくる事があった。カトマンドウの王宮近くに「ガール・ド・カバーブ(カバーブの家)」という旨い店があって、月に一〜二度位、足を運んだ。此処は,ヒンドウー料理(ベジタリアン料理)やナーンも絶品で、一寸,高級だったけれど美味しかった。まだやっているかな?
タイ、それもバンコクに居る今は、国際都市ゆえに、値段を度外視すれば、タイ料理,日本、そしてインドやイタリア、フランス、アメリカのファーストフード、イスラム、ベトナム、韓国、中華と何でも食べられるが、割と欲しくなるのがフライド・ポテト。通称、フレンチ・フライ。スナックにはちょうど良い。値段も安く,旨い。 アメリカのファーストフードの影響で、タイにもポテト、ジャガイモが伝わってきている。タイの人にとってもフライドポテトは、ハンバーガーや他の肉料理以上にお気に入りの様子。ビールのつまみとしては、最高なのだそうだ。
フランス人は,ワインやシャンパンの摘みにするという。色々な凝ったフランス料理を試してみて、最後に到達するのがフライド・ポテトだそうだ。フランス人の大好物。それでフレンチフライというのかな?
タイのように、地元のフルーツや野菜なら何でもござれのような豊かな国にも、ないものがある。それがジャガイモだ。タイでは気候のせいか育たないらしい。ジャガイモはどちらかといえば、寒い国の産物だ。タイにある芋は、タロ芋とムラサキ芋(サツマイモの一種)が中心。ポテトはそんな訳で、タイでは新しい食感なのだ。
ジャガイモは全て輸入品。ミャンマー、ラオス、中国辺りから輸入するのであろう。割と値段も高い。ポテトチップスなどは、ほぼ日本の値段に迫る程。他の物価の割合からすると、割高である。
話は一寸飛躍するが、インドや日本には、ジャガイモのコロッケがある。元々は,フランス料理のジャガイモかホワイト・ソースを繋ぎにして、肉やシーフード、野菜を仕込み、パン粉の衣をつけて油で揚げたもの、「クロケット」辺りがルーツらしい。だが、インドでもイスラム世界でもコロッケは庶民の好物だ。ジャガイモのコロッケに、トンカツソースの代わりにカレーソースをかければ、一寸した「マライコフタ」になってしまう。これも旨い。
凝りだすときりがないが、イタリア風のトマトソースやボロネーズソース(ミートソース)を工夫すれば,ケチャップよりは益しになるし、デミグラスソースやチーズと合わせてもいいかもしれない。いずれ、タイの屋台にも、インドや日本のようにコロッケ屋の店が沢山出てくる事になるかもしれない。安くて旨いのがいい。
今はやっとフライドポテトが街に出始めた所。油でカラッと揚げて、塩と黒胡椒、好みでマスタードやケチャップ、或いは、タイ式の唐辛子のソース(これが、程よい辛さで旨い)をかける。素材の水を良く切り、水気を取ってから、一度軽く揚げて二度揚げするとカリッと揚がる。揚げ方が上手いと、本当に旨い。夢中になってしまう。高価になってしまうが,オリーヴ・オイルか胡麻油で揚げたら,風味は最高! 一寸,贅沢だけれど、健康にもきっといい。
茶の湯で、茶釜の煮えたぎる音を「松風」というらしいが、昔の人は粋に遊んでいたみたいだねー。フライド・ポテトが油で揚がっている時の音は何とも言えない,いい音だ。それはトンカツや唐揚げ、天ぷらにも言える事だが、素晴らしい音楽だ。何と表現したらいいのだろう? 竹の林がさわさわと風にそよぐ音? シュワシュワシュワーッ! 一寸,珍竹林かな。いや、妙竹林だ。
今やもう、フライドポテトは世界食。何料理とも言えない。そして、旨い。もしかすると,いずれ、タロ芋の逆襲が始まるかもしれない。
2006年11月30日木曜日
フライド・ポテト
時刻: 18:35