今日は、ガルーダをテーマにしよう。
夢物語として聞いてほしい。
ガルーダとは、ヒンドウー世界の、鷲の姿をした存在のことである。
魔物であるか、真物であるかは、理解次第だが、ヒンドウー世界では、ヴィシュヌ神の眷属となっている。
仏教界にも、神の鳥としてよく現れる。
そして、タイ王国の王室の紋章にもなっている。
そこで、タイ国王はラーマ(現在の国王はラーマ九世)、即ち、ヴィシュヌ神という訳である。
ガルーダはタイのあちこちで、よく見られる。
それは、「王室御用立て」という事である。
イギリス王室の、ライオンとユニコーンがデザインされた紋章と同じ役割をする。
又、公式文書や、通貨の紙幣にも、ガルーダは描かれている。
ガルーダの立体像は、まるで横綱の土俵入りのように、スピリット溢れる姿をしている。
いつ見ても,気持ちが鼓舞してくるのだ。
そればかりか、イスラム教中心のインドネシアでも、国のシンボルとなっている。
ガルーダは古来から,ヒンドウー,仏教、イスラム世界を自由に飛び回ってきた、天下御免の幻の神鳥だ。
ワンス・アポンナ・神話の時代。
ガルーダ(日本語では「かるら」)の母は、騙しに会って、蛇達の奴隷となっていた。
ガルーダは自力で卵の殻を破り、生まれでてすぐに大きな姿になって空に飛び立ち、奴隷となっている母の所に赴いた。
暫く、母の所で手伝っていたが、母の惨めな状況に耐えられなくなり、如何にしたら、解放してくれるかを蛇達に尋ねた。
すると、蛇達は、神々の所から、甘露(アムリタ)を持ってくれば、自由の身にしてやると約束した。
ガルーダが、甘露を取る為に近づいてくる事を既に知った神々は、戦闘態勢に入った。
だが、ガルーダの翼が巻き上げる砂塵の為にバラモンの神々は混乱し打ち倒されて行った。
ガルーダには、歯が立たなかった。
甘露の番人達も、視力を失って行った。
帝釈天(インドラ)が、風神(ヴァーユー)に命じて、砂塵を何とか取り除かせたものの、
ガルーダは、襲いかかる神々の軍隊を悉く(ことごとく)粉砕した。
正に天上、天下、無敵の怪鳥。
そして、鳥の王,ガルーダは身体をすぼめ、様々な仕掛けを悉く(ことごとく)クリアして、簡単に甘露(アムリタ)の貯蔵庫に入る事が出来たのだ。
神々が仕組んだ罠をくぐり抜け。難なく通り抜けると、二匹の恐ろしい大蛇が、目を閉じる事なく、甘露の番をしていた。その大蛇の視線に止まったら最後、誰でも,灰にされてしまうのだ。
ギリシャ神話にも、一寸似た話が出て来る。
ガルーダは、彼らの目に埃をかけて目をつぶし、大蛇を殺してから、念願の甘露(アムリタ)を手にして飛び立った。
所が,ガルーダは空中で、尊敬する、偉大なるヴィシュヌ神と遭遇したのだ。
ヴィシュヌ神は、彼の目覚ましい働きに満足し、何でも願いを叶えてやると、ガルーダに告げた。
そこで、ガルーダは,二つの事を願った。
一つは、ヴィシュヌ神よりも高い所に住みたいという事。
鳥なので,当然の要求であった。
それから、もう一つは、例え甘露(アムリタ)無しでも,不老不死に成れる様に願った。
又,ガルーダの方も、ヴィシュヌ神に、何でも願い事を叶えてあげると申し出た。
ヴィシュヌ神は,ガルーダを自分の乗り物にする事を選んだ。トレード成立である。
ガルーダが、空を飛んで引き上げようとした時、帝釈天(インドラ)が、金剛杵(ヴァジュラ)で、ガルーダを攻撃してきた。ガルーダは笑っていた。
そして、ヴァジュラとインドラとに、敬意を表する為に、一枚の羽根を捨てる事にした。
実際、ヴァジュラは、全く彼を傷つけなかったのである。
その一枚の羽根が、落ちるのを見て,一切の生類は、驚きの声を上げたという。
その一枚の羽根が,優雅に天上を漂い始めたのだ。
「これは霊鳥スパルナ(美しい翼を持つもの)であるに違いない!」
この奇跡を通じて,インドラは考えを新たにしたのだと言う。
そして、ガルーダとインドラは友情を結び合い、ガルーダは自己の力をインドラに語り始めた。
インドラは言った。
「今や、汝は永遠にして、最高なる友情を受け入れてくれた。だが、もし甘露が必要でないなら、返してほしい。
さもないと、誰かにその甘露を与えたりしたら、そのもの達は、我々を討ち滅ぼしてしまうだろう。」
ガルーダが答える。
「在る目的の為に、私は甘露を奪ったのだが、其れを誰にも渡すつもりもない。甘露を蛇達の前に置いたら、あなたはすぐにそれを持ち去ってください。」
神々の王、インドラはその答えに満足し、「何でも望みを叶えてあげるから言って見なさい。」と申し出た。
ガルーダは、詐欺に依って自分の母を奴隷にした、あの蛇族の事を考えて、「あの強力な蛇族を私の常食になるようにしてほしい。」と願った。
インドラは、一切承知し、彼の後に付いて行った。
甘露をクシャ草(日本語の「草」の語源は、このクシャだと聞いたことがある。)の上に置いて、蛇達に告げた。
「沐浴して、自分を清めてから飲みなさい。それでは、これより私の母は自由だ。」
蛇達もその通りにしようと答え、早速、沐浴しに行った。
その隙に、インドラは甘露を奪って,天界へ帰って行った。
蛇達は,沐浴を済ませ,祈祷を済ませてから、大喜びでその場所に戻ってきた。
しかし,甘露はすでに盗まれ,自分たちが返礼に騙されたのを知ると、失望のあまり、甘露が置かれてあったクシャ草をなめ回し始めた。鋭い草をなめ回しているうちに、彼らの舌は二つに裂け、二股となったと言われる。又,その後、クシャ草は聖なる物となった。それは、甘露と接触したからだそうだ。
その後、ガルーダは母とともに,森で幸せに暮らした。
蛇や龍を食べ,鳥達からも尊敬され,何一つ不満もなく母の心を喜ばせた。
インドに伝わる叙事詩、マハバーラタ(1・18−30)によると、何人であろうとも,この物語を聞く人、又,最上のバラモンの集会で話をする人、そういう功徳を積んだ人は、常に、疑いもなく天界に赴くであろう。
それは偉大な鳥の王の名声に肖って・・・・・。とある。
これは、縁起のいい話なのだ。
ガルーダの話は,目出たいのだ。
この伝説の起源は、「リグ・ヴェーダ」にあると言われる。
鷲が、神酒と言われるソーマを地上にもたらしたという神話もあるからだ。
美しい翼を持つ鷲(スパルナ)が、天界から神々の飲料(ソーマ)を、人祖マヌ(マヌ法典の主)や、神々の信者の所に運んできたという記述が在る。
ガルーダのことを示唆しているらしい。
ここのところは,キリスト教世界に於いて、神に逆らってまで人々を愛した,天使ルシファーを思い出す。
インドラのヴァジュラの攻撃を受けた時,スパルナは一枚の羽根を落として行った。
その時、一枚の羽根は天地の間に漂い、云々・・・・・。
と言ったことも,リグ・ヴェーダに書かれているという。
後年、ガルーダに食べられそうになる「龍」を助ける話も登場し,バラモン、ヒンドウー世界の話は尽きないのだが、在る国の王子が自分の身体を犠牲にして、ガルーダを改心させ、自らも、転輪聖王となる話がある。
それを戯曲化したのが、「ナーガナンダ」(龍の喜び)である。
龍や蛇の増長を牽制しつつ、全ては,丸く収まるのである。
そして、未だにガルーダ人気が衰える兆しはない。
*甘露(アムリタ),ヴィシュヌ神、インドラ(帝釈天)については,前記事「ダースベーダーとヴァースデーヴァ」を参照のこと。