夜半から降り続いた雨が上がり、雲間から、朝の光がそこここに、沸いてきうるかのように、輝きを現し始める。雨に濡れた草木が翡翠のように、しっとりと煌き、そして光が層となって、秋色を見せ始める。
東の風がそよぐと共に、九門は開き始める。
爽やかな朝であった。
街には緑が多く、あちこちで鳥達が朝の到来を祝うかのように、お喋りを始める。
森羅万象が目を覚ます。神々が目を覚ます。
海辺には潮騒が、森には森の、街には街の独特の調べがある。
此処は、アジアのとある街角。
朝の六時。
プラッと散歩にでる。
雨上がりの街の緑が香る。
裏通りを歩いていると、芳ばしい香りがしてきた。パンが焼ける匂いだ。
瞬時に身体が目を覚まし、腹が減ってきた。
おばさんが炭火に網を置いて、パンをトーストしている。
屋根もない屋台だから電気もトースターもない。
炭火を熾してトーストする方が、此処の場合、理に叶っているばかりか、旨いトーストができる。
トーストと冷たいコーヒーを頼む。
おばさんは、程よく狐色に焼きあがったトーストにたっぷりとバターを塗り、その上から軽くパラパラッと粉砂糖を振り掛け、そして次に、竈(かまど)の入り口辺りに、そのトーストを置いて、蒸し焼きにして、バターがパンによく溶け込むようにしてくれる。
中々の隠し味が生じてくる。
注文すれば、蜂蜜やジャムも塗ってくれる。
コーヒーはインスタント・コーヒーなのだが、沸かしたお湯で、コーヒーの粉と砂糖を一度溶かし、シェイクしてから、クラッシュト・アイスの入ったカップに入れ、練乳を後から注いでくれる。
セピア色の美しい飲み物が出来る。
自分でやっても、中々旨いコーヒーは入れられない。
さすがプロといった所だろうか。
竈(かまど)の下に目をやると、ちゃんと木箱が用意されていて、ネコが安心しきって、無邪気に眠っている。
ネコは賢い。
自分にとって「力」のある場所をよく知っている。
カスタネダは知っているかな?
特別、意図されていない、無理のない、何か自然体の清々しさを感じた。
私達の特性として、自分が本当に安心していられる空間に戻ろうとする性質がある。
それが本来の意味での「普通」、オーデイナリーという事かもしれない。
そこでは、自分の個有の波動と環境が脈動し、そして共鳴する人や磁場が備わっていて、日々楽しくやっていけるからなのだ。
普遍性、ユニヴァーサルに生きる人は、誰しもがユニークだ。
無理が無いから、個性がにじみ出てくる。
これが「文化」と言うものの「力」ではないだろうか?
慈しみがあちこちに溢れている。
「タオ」が漂っている。空気が生きている。
仏教で言うところの「浄土」とは、きっとこんな所の事かも知れない。
「無形の美」に出会った気がした。
2005年12月27日火曜日
「普通」と言う魔法。(オーディナリー・マジック)
時刻: 14:27