「見る程に、柳は緑,花は紅(くれない)。」
美しさを表す言葉だが、その美を創り出す力は何処から来るのだろう?
誰でも知っていることだが、植物の力の源は「根」に在る。
勿論、葉っぱにも役割がある。幹や枝葉にも役割があり、そこで初めて、花も咲き,実も実る。
葉には空気中の炭酸ガスを酸素に変える働きが在るのだ。プラーナ(エネルギー)をより効果的に取り入れる為だ。そのお陰で、私達は、「息」をそして、「生き」を続けて行くことが出来る。
この世に植物がなければ、私達は居ない。
だが、「根」がなければ、根無し草ではないけれど,植物として生きてはいけない。存在し得ない。
よく、いい加減な話を、「根も葉もない、」というではないか。
根を断てば,命は終わってしまう。
強いては,総ての生き物が生きては行けない。地球は死の惑星となってしまう。
根は、普通、目には見えない所で活動し、どうしても人の目は目先にとらわれ、花や、実に注意が向いてしまう。
何事にも当てはまることだが、ルーツ、根源という言葉そのものが語っているように、根がなくては何事も成り立たない。
それは、形、以前の問題だ。
全ての形は、根から起こって来る。
仏陀もシヴァも樹の下に座ったが、そこの所に注目していたのだろう。
根の力をもらっていたのだ。
自然が好きな人にとっては、植物の中でも,根に特徴の在る植物は興味を引く。
蓮のレンコン、蘭の根、バンヤン(ガジュマル、シヴァ神の樹)、熱帯の植物は特に根が凄い。
力が、溢れんばかり。
まるで、魔物のようだ。
そしてとても色っぽい。生命力に溢れている。
そこには、花の可憐な美しさとは違った、力のある美しさがある。
真に生きている者は,美しい。
だから、興味は尽きない。
印方、漢方、タイ方と言った自然の生薬、それに、各種のスパイス、カレー粉も根のものが多い。最近のうこん(ターメリック、ショウガの一種)の人気はどうなんだろうか?
何らかの力が、生命力が凝縮しているのだ。
野菜でも,根の野菜は大根、ごぼう、人参、ニンニク、サツマイモと、ほうれん草や、白菜、キャベツと言った葉の野菜とは一寸違う。玉葱と長葱とを比べてみれば判る。
葉には根にない力があり、根には葉にはない力がある。
勿論,どちらがいいとか,悪いとか言っている訳ではない。
タイプが在るのだ。
又、自然に育っている植物は、そこの土地の気候風土の特徴に合っているということだ。
フィットして育っている植物は、見るからに当たり前で自然で力強い。
タイの風土に、日本の野菜の種を植えても、中々根付かないという。
土が合わないらしいのだ。
根付かせるには大変な苦労が伴うのだそうだ。まるで、未知へのフィットネス。
昔,イタリアに居た頃、ナポリの南の方を車で旅行していたときのことだ。
道を聞こうと、ある家に立ち寄った。
緑の丘陵地帯に、オリーヴの林。
日は高く、まだ昼を少し回った所だ。
南イタリアには、何処にでも在る風景だ。
塀はなく、オリーヴの樹が数十本、庭に生えている。
普通なら大きな庭だが、農家ともなれば、それほどでもないかも知れない
一人のおじさんが、ホースで水を撒いている。
それも、オリーヴの樹から10メートル程離れた所に撒いている。
道を聞くのも忘れて、つい尋ねてしまった。好奇心がむくむくと頭をもたげてき始めたのだ。
「今日は! 一寸伺いますが、何故そんな所に水を撒いていらっしゃるのですか?」
「オリーヴに水をやってるんだよ。
知らんもんには判らんかもしれないが、オリーヴの根の先端は、横に広がろうとする性質があるのでな、この辺りが根の先っぽ辺りなんだ。此処に水をやると一番効率よく、また、オリーヴも喜ぶようなんだ。明日になると、葉の色が変わってくるんだ。」
丁度、オリーヴの樹の幹を中心にして、コンパスで円を描くように、5mから10mくらいの所に水をまいている。知らない者から見ると、あんな所と思うような所に、水を撒いているのだ。
空からみれば、オリーヴの樹を中心にしたマンダラを描いているようだ。
そうこうしているうちに、手伝う羽目になり、遠くの所のオリーヴにまでバケツを持って水まきに出かけることになってしまった。
だが、別に嫌々やっていた訳ではない。
植物に水をやるということは、自分にとっても気持ちが良い。素晴らしいレクリエーションにもなった。特別急ぐ用事も皆無であった事も手伝ってくれた。
お陰で、うまい食事とベッドにはありつくことも出来たんだ。
おまけに、もう一日手伝うことになってしまった。
オリーヴは豊穣の樹、生命の樹とも言われている。
その伝説のルーツ、根はエデンにあるそうだ。
元々は、ペルシャ(イラン)が原産らしいが、紀元前に、レバノン周辺に居たフェニキア人(フェニシア人、アラブ系のユダヤ人)が、地中海沿岸一帯に植林を始めたのが起源となっている。
昔の人は、凄いことやってるんだねー。
タイには、ヤシの樹が10本あれば、喰って行けるという話があるらしいが、オリーヴの樹が10本あれば、喰って行けるといわれるのがイタリアだ。
インドだったら、ヤシもいいけど、バンヤン(ガジュマル)の樹のそばに店を出せば、喰って行ける。
人々が、樹に貢ぎ物を持って、次から次へとやって来るからだ。
ただ単に実を取りオイルを絞る、そして少々のお金になる、といった物質的な事だけではないらしい。
樹が持つ、摩訶不思議な魔法の力なのかもしれない。
ヤシの樹、オリーヴ、バンヤン、ただ者じゃない。
魔法、仇おろそかには出来ない。
そのことがあったからではないが、昔から、オリーヴの実もオイルも私の好物になっている。台所には、オリーヴオイルとココナッツミルク、そして胡麻油は何時も用意して置きたいものだ。
今日は、根の話だったね。根から色々と話が進展してしまった。